俺だってヒーローになりてえよ

何が足りないかって、あれだよあれ。何が足りないか分かる能力。

トリッキーな設定でもしっかり伊坂作品。『オー!ファーザー』

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こんなにトリッキーな設定なのに、しっかり伊坂作品として仕上げてしまうのは、作家として器用なんだか、不器用なんだか。

 

平均点小説

どうも、踏み台ブロガーのひろたつです。よろしかったらお踏みください

 

さて、今回も面白い小説を紹介するわけだが、はじめに正直に言っておきたいことがある。 

今回紹介する作品、平均点である。

もしかしたらこれを悪い意味で受け取ってしまう人いると予想されるので、言い訳めいたことを書くと、ここで言う“平均”というのは「面白い小説の平均点」という意味であり、「凡庸な作品」という意味ではないことだ。

常日頃から面白い小説を紹介している私だが、ときには傑作としか言いようがない作品に出会うこともあるし、中にはゴミクズ以下の作品だってある。

そんな傑作と比べれば見劣りするかもしれないが、面白さは確実に担保されていて、ゴミクズ作品とは比べものにならないほどのクオリティがある。

それが「平均点」の作品である。

 

平均点という言葉の解釈を説明するだけでこんなにもダラダラと無駄な文章を書き連ねてしまった。いわば私のこんな文章で埋め尽くされたこの記事はゴミと呼べるかもしれない。

 

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父親が4人?! 

いい加減本題に入ろう。

今回紹介するのはこちら。ばばーん。

 

伊坂幸太郎の『オー!ファーザー 』である。全然面白そうなタイトルじゃないのだが、きっと伊坂のことだから何かの映画のオマージュなのだろうと勝手に想像している。

ちなみに岡田将生主演で実写映画化をされていたりする。映画の方は観ていないし、観る予定もないのだが、配役にムリがありすぎてなかなか興醒めである。

 

 

話を小説の方に戻そう。 

あらすじはこんな感じ。

一人息子に四人の父親!? 由紀夫を守る四銃士は、ギャンブル好きに女好き、博学卓識、スポーツ万能。個性溢れる父×4に囲まれて、高校生が遭遇するは、事件、事件、事件――。知事選挙、不登校の野球部員、盗まれた鞄と心中の遺体。多声的な会話、思想、行動が一つの像を結ぶとき、思いもよらぬ物語が、あなたの眼前に姿を現す。伊坂ワールド第一期を締め括る、面白さ400%の長篇小説。

面白さ400%というのはさすがに言い過ぎだし、何を10割と定義するのかにもよるだろうが、いつもの伊坂作品と比べるのであれば、やはり「平均点」の作品である。

ただ、今までの伊坂作品と比べて面白い、というか目立つ点は「主人公には父親が4人いる」という設定だろう

これだけを読むと、ただの複雑な家庭環境に育った少年の話のように受け取れるかもしれない。しかしながらそこは伊坂。なんともトリッキーで、ポップな理由を設けている。こんなの伊坂じゃないと許されないかもしれない。東野圭吾がこんなの書くとしたら、『◯笑小説シリーズ』でしかありえないだろう。 

 

子供には優しい伊坂

主人公の由紀夫は高校生。色々と難しい年頃だが、彼は生まれてからずっと“父親が4人いる”という難しい状況で暮らしてきたので、同世代の子供たちに比べるとかなり落ち着いた性格をしている。達観しているとも言えるし、諦めが早いとも言える。どちらも対して本質は変わらんか。

そんな由紀夫と、伊坂の筆が生み出す最高に魅力的な父親たちによるドタバタ劇。そんな作品である。

怖い人が出てきたり、もっと怖い人が出てきたり、突然事件が発生して、普通に暮らしているだけだった由紀夫がそれに巻き込まれてピンチに陥ったりと、なかなかスリリングな物語に仕上がっている。

これだけを読むと非常にいつもの伊坂作品なのだが、いくつかこの作品には特有のポイントがある。

まず感じたのは、「いつもよりも容赦しているな」ということ。

容赦しているという言葉の使い方があるのか知らんが、いつもの伊坂作品に比べると、だいぶ主人公への優しさを感じるのだ。やはり、子供が主人公だからだろう。いつもの伊坂作品の主人公であればもっと強烈に追い詰められるであろう場面でも、どこかしらに優しさがある。それがちょっと泣きそうになったりするから困る。いい場面が多い。

 

想像を上手く利用する

この作品の特徴として挙げられることはまだまだあるのだが、かなり作品の構造や作者のテクニック的な部分になるので、ネタバレに近い内容になる。ネタバレではないものの、内容を想像させることにはなるので、それが嫌な方はここの項目だけ読み飛ばしてもらいたい。

 

ここから

もうひとつは、「主要キャラたちの名字が語られない」ことだ。

4人の父親もそうだし、主人公の友人たち、それに主人公である由紀夫でされこのルールを用いられている。これは父親が4人という設定上仕方ないのかもしれない(誰の名字にするのかという問題)。

しかし、それならば母親の名字にすればいいのだろうが、その方法は採用していないし、なんなら母親も出てこなかったりする。父親が4倍出てくるからバランスを取っているのかもしれない。どんなバランスなのかはよく分からないけど、やっぱりこれはこれで効果的だったりする。例えば、「4人の男からプロポーズされて、全員にOKを出してしまうような母親ってどんなやつだよ?」という読者の想像を掻き立てる。そこを宙ぶらりんにすることで、読者はまるで目の前に人参をぶら下げられた馬のように、物語を読み進めてしまう。想像を宙ぶらりんにする要素が多い作品は、非常にリーダビリティが高くなる。

 

他にも本書最高の悪役である“富田林さん”。この人だけは例外として名字で語られる。そして逆に下の名前は分からないままだ。主人公たちとの存在の対比として、あえてそうしているのだろう。それが余計に彼の異質さを生み出している。

富田林は一見するとただの普通のおじさんで、街中を歩いていると柄の悪い連中にすぐに絡まれてしまう。しかし富田林の周りにはそれこそもっと柄の悪いSPが付いていて、富田林に絡んだ愚かな連中は「それ相応の処分」をされてしまう。

富田林自体の怖さは数々のエピソードで語られるのだが、直接的に彼が怖さを出すシーンは作中ではあまり出てこない。ない、と言ってもいいレベルである。それでもなぜか読者は富田林の恐ろしさを植え付けられるし、物語が佳境に入る所あたりでは見事に震え上がることだろう。

怖さを直接描いていないのに怖く感じさせる。これもまた読者の想像力を利用した手法である。作中の人物たちに「あの人は怖い人だ」と語らせてもいいし、実際に震え上がっているシーンを盛り込むのもありだろう。そういったシーンの積み重ねによって、読者はある種の“洗脳”を施される。見たこともないものを恐れるようになるのだ。

これもまた『オー!ファーザー』を面白くする大きな要因のひとつである。

ここまで

 

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効果的すぎるキャラクターたち

毎度のことながら、伊坂作品に出てくるキャラクターたちは最高に“効果的”である。

つまり「物語上の役割として高い機能を発揮する」のだ。

誰がどこで出てくるか。そしてどんなことを喋るか。そのキャラクターだからこそシーンのひとつひとつが輝き、魅力的になる。笑いを起こし、ピンチさを演出する。

この辺りの塩梅は、もう本当にセンスとしか言いようがない。こんなにも無駄なくキャラクターを利用する作家もそうそういないだろう。

そもそもパズル的要素が高い推理小説では、他の小説作品に比べるとキャラクターをピースの役割にさせてしまうことが多い。犯人役がいて探偵がいて助手がいて被害者がいてヒントを出す人がいてガヤがいて、といった感じである。それらのピースが噛み合うことで推理小説作品というパズルが見事に完成する。

だが、それにしても伊坂作品の完成度に肩を並べる作品は見かけない。読んでいる最中も、読み終わるときも、あの「カチッ」と嵌まる感覚は他では味わえない。あれは最高である。

そしてその「カチッと感」を味わいたいがために、みんなは伊坂作品を読み漁ってしまうのだろう。

私の中にある伊坂幸太郎評の「読書の愉しみを味あわせてくれる作家」は、やはり間違っていなかった。

 

最後に

『オー!ファーザー』では巻末に伊坂幸太郎による“あとがき”が収録されている。

作品自体も確かに面白いのだが、個人的にはあとがきが本書一番の見所だったように感じる。

作家本人の言葉を聞けるというのもあるし、書かれている内容が伊坂自身の創作姿勢について言及されていたからだ。こうやって小説を紹介するような文章を書いている私にとっては非常に参考になる。作品分析の役に立つのだ。もちろんただのいちファンとして、伊坂幸太郎がどんなことを考えて創作しているのかに興味があるのは言わずもがなである。

 

ところで、『オー!ファーザー』は新聞連載されていたらしい。

伊坂作品ではないが、他にも新聞連載をしていた作品を読んだことがあって、総じてある種の「グダグダ感」がある。あれは何なのだろう。『オー!ファーザー』も勿論例外ではなく、物語自体の面白さは間違いないのだが、どこか冗長である。何が作用してそうなってしまうのか分からないが、紙面を埋める文字数の制限などから、作家に余計なムリをさせているのかもしれない。

 

まあそれを加味したとしても、十分に楽しめる作品である。特に伊坂作品をこれまでに読んだことがある方であれば、最高の時間を味わえることだろう。

ご賞味あれ。

 

以上。

 

 


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