俺だってヒーローになりてえよ

何が足りないかって、あれだよあれ。何が足りないか分かる能力。

そこは地上で唯一の場所。夢枕獏『エヴェレスト 神々の山嶺』

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初の夢枕獏作品は、最高の読書体験をさせてくれた。

 

クソ最高な登山小説

どうも、読書ブロガーのひろたつです。

今回紹介するのは夢枕獏の代表作ともいえる傑作『エヴェレスト 神々の山嶺』である。クソ最高だったよ。マジで。

 

1924年、世界初のエヴェレスト登頂を目指し、頂上付近で姿を消した登山家のジョージ・マロリー。登攀史上最大の謎の鍵を握るマロリーのものと思しき古いコダックを、カトマンドゥで手に入れた写真家の深町誠だが、何者かにカメラを盗まれる。行方を追ううち、深町は孤高の登山家・羽生丈二に出会う。羽生が狙うのは、エヴェレスト南西壁、前人未到の冬期無酸素単独登攀だった。山に賭ける男たちを描いた、山岳小説の金字塔。 

 

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お得な角川文庫版

元々は『神々の山嶺』というタイトルで集英社より出版され、文庫化もされていた作品である。

しかし今回紹介してリンクも貼っているのは、最新の角川文庫版である。もし読むのであれば私は確実にこれをオススメしたい。

結構な長編作品なので電子書籍で読まない方には結構な負担になるだろう。しかしながらこの角川文庫版の何が良いって、これまで書籍化された際にいちいち夢枕獏が書いていたあとがきがすべて網羅されていることである。つまり、角川文庫版にはあとがきが3つも掲載されているのだ。

地味なことかもしれないが、小説好きとしては外せない点である。特に、こんな濃厚にして長大な作品であれば尚更である。作者どんな想いを作品に乗っけていたのか、そして物語を語り終えたあとにどんな言葉を吐くのか。後味までしっかり楽しみたくなって当然なのだ。

 

著者本人がそもそも大満足

書籍化された最初のあとがきには、次のようなことが書いてある。

書き残したものは何もない。どうだ、まいったか。

正直、プロの小説家の口から出てくる言葉ではない。自画自賛をここまで大っぴらにやるのも珍しい。子供のようである。

でもそれだけ達成感があったということだろう。

取材量もさることながら、丁寧に構築されたストーリー、臨場感のある描写、圧倒的なまでのスケール、溢れんばかりの情熱に満たされた作品である。作者が自画自賛したくなる気持ちもよく分かるってもんだ。

 

ど真ん中を貫く作品

さて、物語の中身についてだが、私のスタンスを書いておきたい。

小説紹介をするたびに書いているが、私はあらすじさえもネタバレだと考えている人間で、前知識が何もない状態で読むことが一番作品を楽しめる方法だと思っている。自分自身が間違いなくそうだからだ。Amazonのレビューとかクソである。

そんな私なので、具体的な中身については触れない。どういうシーンにどう感じたとかそういったことは一切書かない。できることならば、この記事を読んでいるあなたには、すぐにブラウザを閉じて書店に走って欲しいと思っている。

それでもいくらかは作品の魅力を語りたい、伝えたいとも思っており、四苦八苦しながら作品の魅力を遠回しに書き連ねている次第である。

 

で、作品の中身についてである。

最初にも書いたが「クソ最高」。これが一番相応しい言葉だろう

じっくりと、しかしながらしっかりと進むストーリーには、ヤキモキされるかもしれない。でもその後に待ち受けるエンディングにかけての盛り上がりは、最高の読書体験をもたらしてくれるだろう。 

 

ーただただ、誰もできなかった高みに到達したいー。

作中で描かれる孤高の登山家、羽生丈二の熱にきっと胸のど真ん中を貫かれるはずである。

これを読んで、たぎらない人間なんていない。すぐに何かを始めたくなる。

そう言い切れるぐらい、ど真ん中の面白さを持った作品なのである。

 

大体にして運動なんて全然興味ない私が、登山してみたくなったぐらいだ。なんならエヴェレストにも登ってみたくなった。

影響力が凄まじいのだ。

 

人生の縮図

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あまりにもありきたりなことなので書きたくないが、やはり登山をテーマにしているだけあって「人生の縮図」と言わざるをえない。

「人生山あり谷あり」という言葉の通り、人生に例えやすいのが登山である。

到達する高みは人それぞれかもしれないが、困難にぶつかり、乗り越え、達成感を得る。それは誰もに共通することだろう。みんなそれぞれに苦しみを抱え、喜びを感じている。

それを思うと登山を趣味にする人が多いのも頷ける話で、こんなに分かりやすく達成感を感じるための行為もなかなかないだろう。

もちろんそれは『エヴェレスト 神々の山嶺』も同じである。分かりやすすぎるぐらい、達成感のために真正面から困難にぶち当たっている。この物語は我々の人生そのものなのだ。

 

しかし、『エヴェレスト』を実際に読めば、そんな私のくだらない比喩なんてどうでもよくなるし、面白さの理由付けなんてものも虚しくなるだろう。

そこにあるのは、圧倒的なまでの山への熱意である。

その熱に当てられ、唸らされ、溜息をつく。

我々にできるのはそれだけだろう。

 

地上で唯一の場所

ご存知の通りエヴェレストが地球上で一番高い山である。ちなみに“チョモランマ”って、エヴェレストのチベット語のことだったりする。これまでずっと違う山のことだと思ってたよ。更にちなむとネパール語では“サガルマータ”である。

このエヴェレストの頂上は当然、地上で一番高い場所になる。宇宙に一番近い場所である。

地上で唯一の場所と呼ぶに相応しいその場所には、何があるのか。登りつめた先に見える景色はどんなものなのか。また、自らの胸に去来する想いは…?

それを知りたいがためだけに男たちは登る。命を懸けて登り続ける。

 

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バカな男たちを描いた物語である。彼らはただ知りたいだけなのだ。そのために命を落とす可能性すら恐れないのだから、バカと呼ばずになんと呼ぼうか。

そして、こんなバカな物語を書き上げ、『エヴェレスト』の登場人物たちと同様、誰も到達できない高みを目指した夢枕獏。彼もまたバカな男である。

 

いやー、まいった。本当に。

 

以上。