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これぞ“面白い小説”。伊坂幸太郎『アイネクライネナハトムジーク』

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どうも、読書中毒ブロガーのひろたつです。

今回紹介するのは、多くの読書家を鮮やかに魅了する伊坂幸太郎の作品。

 

普通の人のちょっとした幸せを描いた名作

妻に出て行かれたサラリーマン、声しか知らない相手に恋する美容師、元いじめっ子と再会してしまったOL……。人生は、いつも楽しいことばかりじゃない。でも、運転免許センターで、リビングで、駐輪場で、奇跡は起こる。情けなくも愛おしい登場人物たちが仕掛ける、不器用な駆け引きの数々。明日がきっと楽しくなる、魔法のような連作短編集。 

今作で出てくるのは、とっても普通の人々。それこそ現実世界を生きる我々とさほど変わらない人たちだ。

そんな人たちに巻き起こるちょっとした素敵な奇跡を描いた作品である。

出てくる人たちが普通な分、その素敵さに余計にヤラれることだろう。ハマりどころが良いと、思わず本をぶん投げてしまうかも。私がそうだった。

 

この作品のキッカケ 

伊坂幸太郎がこの作品を書くキッカケになったのは、斉藤和義の楽曲の作詞を担当したことからである。

ちなみに、こちらがその楽曲。

 

この楽曲のことは『アイネクライネナハトムジーク』を読むまでまったく知らなかった。ただ、半表題作の『アイネクライネ』の内容をあまりにも華麗にまとめているので、知らない曲なのに知らない曲とは思えない、という不思議な感覚を味わうことになった。

ここから斉藤和義との交流が生まれ、対談本も出版し、さらには『アイネクライネナハトムジーク』という連作短編集へと繋がっていく。

ちなみに『アイネクライネナハトムジーク』では、謎の男“斎藤さん”が出てくるのだが、斉藤和義のことなのかどうかは不明である。

 

 

恋愛不得意作家 

『アイネクライネナハトムジーク』は恋愛をテーマにした連作短編集である。

これは珍しい。

何が珍しいって、伊坂幸太郎の作品をこれまでに読んだことがある方であればご存知だと思うが、彼の作品にはいわゆる“恋愛もの”が存在しないのだ

作品のテーマとして扱われることがそもそも無ければ、物語のファクターとして使われることも、ほっとんどない。

大体にして伊坂本人が「恋愛ものに興味がない」と断言しているくらいだ。

世のエンタメ作品を見渡してみると、むしろ恋愛要素がないものを探す方が難しいぐらいなのだが、それをあえて避け、しかもそれでも超面白い作品を生み出してしまうのだから、伊坂はやっぱり変態である。

 

ひねくれた恋愛ものです 

そんな恋愛不得意作家の伊坂幸太郎が恋愛小説を書くとどうなるか。

 

『アイネクライネナハトムジーク』はとっても“ひねくれた恋愛もの”である。

 

私もあまり恋愛ものは読む方じゃないが、それでも世に溢れんばかりに溢れているエンタメ作品の洗礼を受けているので、普通の恋愛ものがどういうものなのかは理解しているつもりだ。

というか、恋愛を扱っている時点で、その物語構造はほとんど同じである。なのにそれでも、みんながいつまでも恋愛ものに興味を失わないのは、非常に興味深い事実である。やはり、本能に根付いたコンテンツは強いということなのだろうか。生死、親子なんかも同様である。

 

さて話は逸れたが、要は何を言いたいのかというと、「文句なしの伊坂作品」だということだ。

伊坂は病的なまでに「伊坂らしい」小説を書いてしまう作家である。彼がどれだけ「恋愛もの」を書こうとも、結局は伊坂作品としか言いようがないような作品が生まれてしまうのだ。もちろんそれはイコール“面白い小説”ということになる。

 

伊坂作品にハズレ無しである。というのは…さすがに言い過ぎか。 

 

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恋愛のハラハラ・ドキドキ一切なし 

これから『アイネクライネナハトムジーク』を読む方に注意してもらいたいことがある。

それがこの作品を“ひねくれた恋愛もの”たる所以なのだが、まあそれはもうビックリするぐらいに恋愛もの特有のハラハラ・ドキドキが一切ない。

恋愛をテーマとして扱っているにも関わらず、ここまでドラマがないのは驚異である。しかも収録されている作品すべてなのだ。ここまで来ると曲芸の領域である。

しかしながら、そこは伊坂だ。恋愛特有のみんなが大好きなハラハラ・ドキドキこそないが、超美味しいエンタメとして仕上げてくれている。

出てくる人はあまりにもちっぽけで普通。でもとっても普通じゃない物語。伊坂幸太郎という神から登場人物たちに贈られる魔法。ささやかな奇跡。登場人物だけじゃなく、読者も確実にやられるはずだ。

 

面白い物語やエンタメ作品を作ろうと思ったら、恋愛を武器にするのは常套手段だと思う。好きなだけ使えばいいと思う。

でも、それだけでは辿り着けないエンタメの答えみたいなものが、この作品にはあると私は思う。

 

以上。

 

 

蛇足かもしれないが、この作品はタイトルが一番魅力的だと思っていたりする。