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ホリエモンも絶賛する『とんび』を読んでみたら予想以上に体液出た

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面白い本を探すにはそれなりのコツがあると思っている。

まだ読書初心者だった頃は、それこそ手当たり次第に選んでいたので、それはそれはもうしょっちゅう地雷を踏んでいたものだ。

手痛い経験をたくさんしてきたお陰で、今ではそうとうな高確率で面白い本を引き当てられるようになった。地雷本たちに払ったお金を無駄にしたと思った時期もあったが、今では「良い勉強になった」と自分に言い聞かせられるぐらいは成長した、っぽい。

っぽい、というぐらいなので真っ直ぐ成長はできなかったようで、自分で面白い本を探せる能力を身に付けた代わりに、人から勧められると読む気が失くなるという能力を身に着けてしまった。悲しい。

そんなへそ曲がりな私だが、尊敬する人や好きな人から勧められた本であれば、それなりに興味は持てる。読むかどうかは別の次元だが。

ということで今回、珍しく他人が勧めていた本を読んでみた。

それがこれ。

とんび (角川文庫)

重松 清 角川書店(角川グループパブリッシング) 2011-10-25
売り上げランキング : 3556
by ヨメレバ

勧めていたのはホリエモンこと堀江貴文氏。私は彼の著書『ゼロ』が大好きなのだが、この本の中で重松清の『とんび』を絶賛していた。曰く「滂沱の涙」を流したとか。

正直、そういった安易な触れ込みは大嫌いである。芸能人が小説の帯に書く「泣きながら読みました」なんてまったく信用できないし、そんなこと書いている時点でそいつのこともその本も嫌いになる。

ぐらいなのだが、おっさんになってきたせいか、たまにはそんな薄っぺらい勧められ方をした本を読んでみてもいいかな、と思ってしまった。決して血迷った訳ではなく、単に私も丸くなったということである。

グダグダと言い訳のような文章を書き連ねてきたが、「さっさと本の感想を書けや」という声が聞こえてきそうなのでこの辺にしておこう。

 

なので感想をずばり書く。

 

 

泣ける。

 

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間違いなく泣ける。っていうかすげえ泣いた。いい歳こいたおっさんがボロボロ泣いた。ホリエモンが「滂沱の涙」と語ったのもきっと大げさではないのだろう。私が想像していた量の5倍は体液が流れ出た。仕事終わりの疲れているときに読むと、2ページぐらいで泣いてしまう。瞬殺である。

きっと私が歳をとったせいもあるのだろうが、『とんび』の破壊力は相当だと思われる。戦闘力で言うと53万ぐらいだ。あの冷蔵庫のオカマと同じぐらいである。

 


ドラゴンボール 復活の『F』マキシマムザホルモン

 

こんなホルモンの動画を貼ったところで『とんび』の魅力は何ひとつ伝わらないと思うので、Amazonの紹介文を転載しておこう。

昭和三十七年、ヤスさんは生涯最高の喜びに包まれていた。愛妻の美佐子さんとのあいだに待望の長男アキラが誕生し、家族三人の幸せを噛みしめる日々。しかしその団らんは、突然の悲劇によって奪われてしまう―。アキラへの愛あまって、時に暴走し時に途方に暮れるヤスさん。我が子の幸せだけをひたむきに願い続けた不器用な父親の姿を通して、いつの世も変わることのない不滅の情を描く。魂ふるえる、父と息子の物語。

貼ったあとで申し訳ないが、私はあらすじさえ読まずに本書を読んだので、本当に最初っから最後まで展開を楽しむことができた。この紹介文にはほんの少しだがネタバレがされている。確かに『とんび』の話のメインは「父と子」なので、これくらいのネタバレは許されるレベルなのだろうが、それでも本好きの私からすると、「読者の楽しみを奪っている」と思わずにはいられなかったりする。

まあそれは置いておくとして、『とんび』の中身に話を戻そう。

とにかく泣ける作品である。大体にして作者があの重松清である。日本一の家族小説作家と言っても過言ではないだろう。

彼の強みは恐ろしいまでの「憑依っぷり」である。作品の登場人物の内面描写に説得力がありすぎて、完全に同化してしまう。

『とんび』で言えば、父親のヤスさんである。時代がかっているし、趣味も私とはまったく違う人間のはずなのに、読みながらヤスさんの感情がすべて流れ込んできて私を支配する。その結果、速攻で泣く。

それにしても重松清のこの圧倒的な文章力は何なのだろうか。まるで実際に見てきた人や物語をただただ描写したようなリアリティがある。正確には「リアリティがある」と読者に思わせてしまう。『とんび』のあとがきに本人がなぜ主人公のヤスさんをこんな性格にしたのか書いていたが、その当たりの塩梅がこれだけの面白い作品を生み出す秘訣なのかもしれない。アーティストの才能ってやつは結局のところ“バランス感覚”なのだろう。

 

ヤスさんは子供を本当に心の底から愛し、自分の身を捧げるように生きている。その生き様に心打たれる。人は純粋なものに触れると感動するようにできているようだ。悔しいけどこんなに泣かされてしまうのは、きっとそういうことなのだろう。

 

あまり褒めてばかりのレビューも面白くないので、イマイチだった点も書いておきたい。

これは読書マニアだからこそのツッコミであり、きっと普通の人からすれば「は?そんなのどうでもいいでしょ」と言われるようなことだし、これから『とんび』を読もうとしている方にとっては余計な知識になって、読んでいる最中に気を取られてしまう可能性があるので、読み飛ばしてもらってかまわない。

 

イマイチだった点ここから

 

『とんび』は新聞で連載されていたものをまとめた作品である。

こういう連載作品にはつきものの悪いクセがある。

朝ドラなんかを観てもらえば分かるが、連載というのはその回のたびに何かしらの“ドラマ”を作らなければならない。つまり問題が起こったり、山場が訪れたりするのだ。

それが2,3回であれば別に構わないし、気にならないと思うのだが、本書の中で何回も問題が発生し、揉めたり、山場が訪れたりすると、何か設定が出てくるたびに「どうせこれも何かのトラブルになるんでしょ?」と余計なことを考えるようになってしまう。それにあまりに主人公の人生がトラブルだらけで波乱万丈になるので、リアリティが失われ、「これは作り物の世界なんだ」と冷めた目で見てしまったりする。

 

イマイチだった点ここまで

 

 

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感動作と呼ばれる作品の大概は「死」に依存した作りになっている。大事な誰かを殺したり不幸に陥れれば客は感動するから、作り手が安易に死を使ってしまう。

それではあまりにも下品だ。

『とんび』でも死の要素はある。だが死に甘えた作品では決してない。父と子の、そしてたくさんの心を扱った物語である。死はあくまでもスパイス程度に抑えられている。

だからこそ、素直に泣くことができるし、涙を流したあとの気分は非常に爽快である。喪失の涙ではないからだ。

そんな作品に出会えたことを私は素直に感謝したいし、それと同時にこんな作品を生み出してしまう重松清という男の才能に畏怖してしまうのだった。

 

感動作に出会いたいのであれば必須の作品である。読書マニアの私が自信を持ってオススメしたい。

 

以上。

とんび (角川文庫)

重松 清 角川書店(角川グループパブリッシング) 2011-10-25
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